除夜の鐘を聞きながら 第一話

さて、一期生の話はもう少しだけ続きます。

秋には奈良県機械工業協同組合が主催するソフトボール大会にも参加して三位になりました。初めて体験するスポーツに備え、会社のみんなと昼休みに練習をしている様子は、すっかり会社に溶け込んだ感じです。
日本語の理解力も格段に伸び、会社の人にサッカー観戦に連れて行ってもらい、技術指導員にはプロ野球観戦に連れて行ってもらいと、日々の生活や仕事の中で様々な経験が出来た二年間だったと思います。

この年、会社の大掃除をしながら、老爺爺はフッと思いついた事がありました。
そうだ!帰国までに除夜の鐘をつかせてあげたいよな~と。
大掃除が終わって、明日から楽しいお正月休みですよ、と思っていた彼らにとっては迷惑千万な突然の思いつきです。

「31日の夜に除夜の鐘をつきに東大寺へ行きますよ」

といった私に除夜の鐘が何なのかも聞かず二人揃って

「行きません」

と二つ返事で断ります。

「来年の11月には帰国するでしょ?除夜の鐘をつけるのは今年が最後です。行きますよ!」
と言っても

「寒いですから行きません」

彼らが頑なに断るのには訳があります。
その年の3月12日に東大寺の修二会(お水取り)を見学に行きました。
12日はお水取りのクライマックスで、ものすごい人出だったことと、その夜の深々と冷える寒さを覚えていたのです。

こんなに嫌がっってるんだから…やめておこうか…等と優しい心根を持った老爺爺ではありません。

「ダメですよ。除夜の鐘をつきに行きます。31日に電話をします」

と勝手に予定を決めた私なのでした。